天久翼&天久鷹央 兄妹の日常カルテ
ある日の昼下がり、僕、小鳥遊優が、勤務する天医会総合病院の三階にある医局フロアを歩いていると、すぐ横で「げっ!」と声が上がった。
見ると、隣を歩いていた統括診断部の部長、つまりは僕の上司である天久鷹央が、よく中学生に間違えられる童顔に苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて足を止めていた。
「どうしたんですか、鷹央先生? 轢かれたカエルみたいな声上げて」
訊ねると、鷹央は無言のまま正面を指さした。顔を上げると、数メートル先に小柄な少年が、鷹央と同じようにどこまでも渋い表情を浮かべて立ち尽くしていた。
年齢は高校生ぐらいだろうか? 華奢な身体にやけにファッショナブルなジャケットを纏っているが、かなりの美形のせいか不思議と似合っている。
ふとデジャヴをおぼえる。彼の顔に見覚えがある気がした。けれど、これだけの美形なら、一度会えばそう簡単に忘れるはずはないと思うんだけど……。
誰だろう、あの子供?
僕が首をひねると、少年は眉間に深いしわを寄せて大股に近づいて来る。
「僕は子供じゃない!」
少年は僕の鼻先に指を突きつけた。「え?」と呆けた声を漏らしてしまう。
「だから、いま僕のことを子供だと思っただろ。こう見えても僕は三十二歳のれっきとした大人だ!」
三十二歳? 僕より年上?
「そう、君より年上だよ」
「え? え?」
混乱していると、隣から深いため息が聞こえてくる。横目で視線を向けると、鷹央は思い切り顔をしかめながら、少年を指さした。
「たしかにこの男は子供じゃない。そのうえ、人間ですらない」
「人間じゃない? あの、鷹央先生、ちょっと意味が分からないんですけど……」
「こいつは妖怪だよ。心を読む妖怪、サトリって知っているだろ。それだ」
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