吸血族少女の秘密のたしなみ

「ああ、何やってるのよ!」
神聖都市サクレグナヴィスの中心部にある、創造神リエンタレムを称える教会群、その一角にある修道士用の寮で、夕方の訓練を終えたミコト・スメラギがベッドで、薄く切って揚げた芋に砂糖をまぶした菓子を食べていた。
仰向けになっているミコトが、街で密かに流行っている吸血族と天子族の美男子が、禁じられた恋に落ちるという小説を読んでいると、甲高い声が部屋の空気を揺らした。
目だけ動かして声がした方向を見る。ルームメイトであるノイ・ファンスが出入り口の扉を開けて部屋に入ってきていた。
「ああ、おかえりなさい、ノイ」
「お帰りなさいじゃない。いつも言ってるでしょ。砂糖が床に落ちて虫が湧くから、ベッドの上でお菓子を食べないでって」
ウサギ型の獣人族のシンボルである長い耳を立てながら、ノイは声を荒らげる。
「分かっています、分かっています。耳にタコができるぐらい繰り返し聞かされましたから」
「分かっているなら、やめろって言ってるの!」
ノイの耳についているふわふわの毛が逆立つ。
「そんなに怒らないでくださいよ。ちょっと考えてみてください。このお菓子をわざわざあそこの地味な机に置いて、硬い椅子に座りながら、並んでいるリエンタレムの教義学習用のテキストの背表紙を見ながら見る味気なさを。せっかく職人の方が作ってくれたこのお菓子を食べるなら、こうやって横たわって、読書という高尚な趣味のお供にするのが礼儀っていうものではないと思いませんか?」
「思わないわよ! それに高尚な趣味って、あなたが読んでるの、殿方同士のえぐい性的描写のあるエロ本でしょ」
「エロ本とか言わないでください! これは文学です! 愛と性の本質を描いた美しい文学なのです!」