エルフ少女の願い

矢筒に数十本の矢を装填したレミナ・ルテミナ・ネモスは、腰の鞘から探検を抜き刃毀れがないか確認していく。
「レミナ、準備はできた?」
背後から凛とした声をかけられ振り返ると、姉であり、このエルフ族の住む町であるネモスの防衛隊長でもあるアスタリミ・ルテミナ・ネモスがその整った顔に柔らかい笑みを浮かべながら近づいてきていた。
「うん、もうすぐ行くつもり。私がいない間、町の防衛はをよろしく」
守護隊の副隊長であるレミナは、アスタリミをサポートする立場だ。しかし、これから数日、レミナは重要な儀式に従事しなくてはならず、副隊長のしての任を果たすことができなかった。
「心配しないで、あなたは狩人としての務めを果たしなさい。防護壁に守られている街より、単身で森に入るあなたの方が危険なんだからね」
「……分かってる」
レミナは表情を引き締める。元々このネモスの町の周囲に広がる森は、比較的安全な場所だった。凶暴な肉食獣も近辺には住んでおらず、レミナも子どもの頃はよく森に入っては木の実などをひろっていた。
しかし、数年前に状況は一変した。何百年も前に聖勇アズマに倒された『血の涙滴』の二つ名を持つ邪神が復活したことによって。
森ではそれまで人に危害を加えなかったゴブリンやオークなどの猿たちが、邪神の影響を受けて人間を襲うようになっていた。
もちろん、周囲の森だけでなく、この世界のあらゆるところで邪神直属の怪物たちが、その影響を受けた動物たちと共に人間を滅ぼそうと、攻撃を仕掛けるようになった。
エルフたちが故郷と慈しんできた森は今や安全な場所ではない。森に木の実や果実を収穫に行く際は、防衛隊の精鋭たち数人が辺りを護衛したうえで、短時間で済ませなければいけないし、それほど警戒をしていても、この毎年数人が敵の襲撃により命を落としていた。
それゆえ、一人で町の外に出ることは、いまや掟で厳しく制限されていた。
これからレミナが行う『狩人の儀』を除いて。